【私達が見たかったもの、見ていたもの】『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』 ネタバレ・感想・レビュー

 

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©2019 Sony Pictures Entertainment, Inc
公開翌々日、ようやく見ることができた…
スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』 
『エンド・ゲーム』公開後約二ヶ月ほどしか経っていないわけだが、期待を最高の形で裏切ってくれた『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(以下FFH)について書いていきたいと思う。
 

ネタバレ全開になってしまうため、未見の方は先に映画館へ向かっていただきたいと思う。エンド・ゲームを見ていない方もPCを閉じることを強く願う…。

 

逆に言えば、FFHを見た方にはぜひ読んでもらいたい記事。復習も兼ねてストーリーとポイントを追っていきたい。

 
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1. FFHのテーマは?

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©2019 Sony Pictures Entertainment, Inc
エンド・ゲームもとい、サノスのスナップを経た我々へ
今後のMCUサーガ(物語)の道標をしめす
これなのではないかと思う。
 
トニーは長い眠りに付き、スティーブもキャップを引退し、いまや年老いた老体。FFHの登場人物たちも度々口にしていた「アベンジャーズの次のリーダーは誰なのか」「アイアンマンの意思を継ぐのは」この質問に正面から答えるだけの覚悟も度量も今のピーターにはない。
自らアベンジャーズを引っ張っていくと言う器もなく、できることならトニーの後も自分ではない誰かに任せてしまいたいのである。そんなピーターが物語を通して、葛藤し、打ちのめされながらも少しずつ成長していく。この成長こそが、これからのMCUを牽引していくのは彼なのだろうと感じさせてくれる。
そしてこの構図はトニーがアイアンマンとなり、鉄の意思を持つに至った流れを踏襲しているようにも見える。所々に散りばめられた過去MCU作品のオマージュにも似たシーン数々は、その流れに観客の意識が自然と向くように配慮されたものだったのだろう。
 
そうしてみた時にホーム・カミングでは
ピーター→スパイダーマン(親愛なる隣人)
が描かれていたが、FFHでは
スパイダーマン(親愛なる隣人)→スパイダーマン(真のヒーロー)
と変化しているのは言うまでもない。
 

 

2.ヴィラン:ミステリオが登場した意図は?

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©2019 Sony Pictures Entertainment, Inc
質問に答えるとするなら
‘’我々観客を一度現実に戻し、今一度ヒーローの世界へ引き戻す為”
これに尽きるだろう。順を追って見ていこう。
 
エンド・ゲーム直後の公開と言うこともあり、様々な番組とタイアップを組み、CMも複数パターンが放送される中で、本作でミステリオという新たなヒーローの登場を期待していた多かったのではないだろうか。(原作コミックをご存知の方はともかく)
ミステリオはマルチバースの地球からやってきた異星人ヒーローとしてピーターの前に現れるわけだが、知っての通り、それらはすべてミステリオが仕組んだことであり、設定からスーパーパワーまでそのすべてが真っ赤な嘘。そしてこのミステリオというキャラクターが仲間ではなく、ヴィランとしてピーターの前に立ちはだかるのである。
こうした裏切り的な展開はよくある形だが、ポイントになるのはホログラムを解いたミステリオの真の姿が“映画の撮影で使われるような合成スーツ”という点である。ヒーローを作品として描く以上、撮影裏ではこうしたスーツを着ていることは皆周知だと思うが、そのスーツが映画の中に出てくるというのはヒーロー映画のわかりやすいタブーである。私達が見たいのは活躍するアイアンマンの姿であり、合成スーツを着たロバート・ダウニー・Jrではないのだから。
 
そんな姿を敢えて入れ込んできたジョン・ワッツはこう言いたいのだろう。
「いやいや皆さん、ヒーローは作り物だから。忘れてないよね?」
エンド・ゲームというお祭りを経た私達をミステリオの姿は冷静に、そして確実に現実へ引き戻す。
ではなぜこんなことをしたのだろうか?
空を飛び、手から光線を放つヒーローたちの活躍を見せ続けていても良かったはずだ。あるいはエンド・ゲームの余韻に浸るような作品にすることもできたはず。
そうしなかったのはやはり、冒頭でも触れた“我々観客を一度現実に戻し、今一度ヒーローの世界へ引き戻す為”これしかないだろう。
約11年におよぶインフィニティ・サーガをエンド・ゲームというファン大感謝作品で締めくくったことは、我々が思っている以上に我々を盲目にさせている。
だからこそ一度“ヒーローは作り物である”という現実を見せ、それ(作中ではミステリオ)をヒーロー(スパイダーマン)が倒す姿を改めて描くことで、確実に‘’これからもこの世界(作品の中)では確かにヒーローが存在し続ける”ということを示している。
 

 

3.ニック・フューリーとマリア・ヒルの正体がスクラル人のタロスだったのは何故か?

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エンド・クレジットで本作FFHに登場していたニックたちはキャプテン・マーベルで登場したスクラル人タロスとその妻だったことが明かされたわけだが、これが意味するところは、「今見ている世界すら偽物、あるいは操作されたものかもしれないよ?」ということだろう。つまり私達が見ているものはすべて作られたものにすぎず、製作側のさじ加減一つでどうとでもなるのである。(思えば当たり前のことだが)それを踏まえてもMCUはこれまで確実に私達が見たかったものを見せ続けてくれている。この点においてファンはすでに全幅の信頼を寄せているはずだ。だからこそ作品に没入し、ヒーローの一挙手一投足に注目し、共に怒り、共に泣くことができる。
逆に言えば今回のような手法でヒーロー映画のタブーに切り込むことは製作側がファンを信頼している証ともとることができるはずだ。それでもヒーローを信じ続けるであろう心を。
 
振り返ってみれば、FFHにおけるニックはいささかドジな印象もあった。簡単にミステリオの術中にハマるし、そもそも急に現れたミステリオを信用しすぎている節も。これらの違和感が仕事をしなかったのは、これまでニックが“騙されたふりをしているだけで最終的には全部お見通し”というような振る舞いをし続けてきたからである。(ラストシーンから察するに最終的にはそうだったわけだが)キャラクターを着実に作り上げてきたからにほかならない。そうしたキャラクターが積み上げた信頼にも似た設定すら、我々を騙すための餌に使う、全くジョン・ワッツは実に巧みなディレクターである。
 

 

4.多彩なアクションシーンとスパイダーセンス(ピータームズムズ)

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©2019 Sony Pictures Entertainment, Inc
ホーム・カミングでは多くのファンがアクションシーンの量について言及していた。
私自身もホーム・カミングに対して「新章突入だものな」という評価以上は特にしていなかった。
高校生活も描きつつ、一人の少年がスパイダーマンとして成長していく過程は今やシリーズで通説となりつつあるが、ヒーローものとしての色よりも少年の成長譚としての色を強く押し出しているような印象を持ったことを覚えている。
 
勿論、FFHにおいても軸足はそこからずらさずに物語は進んでいくが、特にラスト、対ミステリオのアクションシーンは過去作のアクションシーンの中でもトップクラスのクオリティだった。スパイダーマンにおける個人的ナンバーワンアクションといえば、アメイジングスパイダーマン2のラスト、発電所のアクションシーンなわけだが、それに匹敵するレベルのシーンの連続だった。ここだけを見にもう一度劇場に足を運んでもいいくらいには素晴らしいシーンだった。本当に。
 
追い詰められながらもドローンを着実に破壊してく流れは圧巻。しかしそのアクションシーンは極めて高い身体能力によるものにすぎず、見ているこちら側の想像の域を出ない。その原因として最も大きなものは、過去作のスパイダーマンとの違いである覚醒しきっていない“スパイダーセンス”もとい“ピータームズムズ”だろう。
FFHではメイおばさんが“スパイダーセンス”のことを“ピータームズムズ”と呼称している。蜘蛛が持つ第六感的な能力を総称して過去作では“スパイダーセンス”と呼ばれていた能力である。危険の察知や少しばかりの未来予知、善人悪人の感知などがこれまでの作品では描かれてきた。
 
物語の大詰め、いよいよミステリオと対峙したピーターは、前回五感すべてを支配され完敗したことを想起し、そっと目を瞑ってこういう。
「来い、ピータームズムズ。」
このセリフ回し自体はコメディ色が強いが、ピーターが初めて意識的に“スパイダーセンス”を使おうとし、そしてやってのける。
目に見えるものを塞ぎ、感覚を研ぎ澄ます事でホログラムを見せているドローンを次々と倒していく様は爽快。
またこのシーンには「ここで絶対に倒さなければならない」というピーターのヒーローとしての覚悟のようなものも見え、FFHを通してピーターとしても、スパイダーマンとしても成長したことを感じさせてくれる。3Dか4Dで是非ともまた見たい。
  

 

5.まとめ

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©2019 Sony Pictures Entertainment, Inc
今回はスパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』について書いてみた。
全編通して私達の見たかったものを見せながら、見せていなかったわけだが、それを見事にやってくれるのがMCU
学園モノとしてのお決まりはそれほど多くないが、ホーム・カミングから学年が一つ上がり、高校三年生となったピーターとMJから今後も目が離せない。
また、ミドルエンドクレジットでスパイダーマンがピーターであることが報道されてしまったわけだが、これによって同じ高校の友人、メイおばさん、そしてMJなど身近な人が狙われる展開になることは避けられないはず。
そこでもピーターのヒーローとしての葛藤を描くつもりなのであれば、過去作とどう差別化を図るのか、ここにも注目し、引き続き楽しんで追っていきたいと思う。
 
kenkenは…

これは見に行ったほうがいいすよ